東京地方裁判所 昭和43年(ワ)2059号 判決 1969年6月11日
原告 戸波久光
右訴訟代理人弁護士 山口博久
被告 高木昌憲こと 朴昌憲
同 松田学こと 李鐘学
右被告両名訴訟代理人弁護士 松永繁雄
主文
被告李は別紙物件目録(一)記載の土地についてなされている別紙登記目録第二記載の各登記、および別紙物件目録(二)記載の建物についてなされている別紙登記目録第三記載の各登記の申請をせよ。
被告朴は別紙物件目録(一)、(二)記載の土地、および建物についてなされている別紙登記目録第一記載の各登記の抹消登記の申請をせよ。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
<全部省略>
理由
(一)、本件土地、建物が原告の所有に属していること、本件土地、建物について被告朴のために本件第一登記がなされていること、本件土地について被告朴の本件第一登記上の権利の被告李に対する移転登記である本件第二登記がなされていること、本件建物について被告朴の本件第一登記上の権利の移転登記である本件第三登記がなされていることは、いずれも各当事者間に争いがない。
(二)、官署作成名義の部分が真正に作成されたことに争いのない乙第二号証によると、本件第一登記のうちの別紙登記目録第一の(二)記載の抵当権設定仮登記は被担保債権額を一千万円、債務者を鳥羽電機とするものであることが認められる。
(三)、被告らは、昭和四十二年八月十九日、被告朴と原告間に、被告朴の鳥羽電機に対する継続的金員貸付に基く鳥羽電機に対する被告朴の債権を担保するため、原告所有の本件土地、建物について被担保債権極度額を一千万円とする、存続期間の定めのない根抵当権設定契約が成立したと主張するが、原告の署名が真正に作成されたことに争いのない乙第二号証のみから被告の右主張事実を認めることはできず、また、真正に作成されたことに争いのない甲第一号証、および弁論の全趣旨に照らして考えると、右乙第二号証のみから、被告朴と原告間に、被告朴の鳥羽電機に対する一千万円の債権を被担保債権とする通常の抵当権を本件土地、建物について設定するという契約が成立したということを認めることもできず、他に被告らの右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
もっとも、当事者間に争いのない、昭和四十二年八月十九日、被告朴が鳥羽電機に対して二百万円を貸付けたという事実、および真正に作成されたことに争いのない甲第一号証、前掲記の乙第二号証をあわせて考えると、同日、原告と被告朴間に、本件土地、建物について被告朴の右二百万円の貸金債権を被担保債権とする抵当権設定契約が成立したことは認めることができるが、鳥羽電気が右借受金債務支払いのため被告朴に対して振出した約束手形が、被告朴から被告李に譲渡された後、被告李に対してその手形金が支払われたことは当事者間に争いがない。してみると、本件第一登記のうちの前記の抵当権設定の仮登記は、その被担保債権の額を二百万円とする限度においては有効になされた登記であり、したがって、本件土地についてなされた別紙登記目録第二の(二)記載の抵当権移転の仮登記、本件建物についてなされた別紙登記目録第三の(二)記載の抵当権移転の仮登記も、右の限度においては有効な登記であったが、その被担保債権の消滅によって、失効したものといわなければならない。
四、本件第一、ないし第三登記のうち右の抵当権設定仮登記、およびその移転登記を除くその余の各登記については、その登記原因の存在について何も主張がない。
右のとおりであるから、被告朴に対して本件第一登記の、被告李に対して本件第二、第三登記の抹消登記の申請をなすことを求める原告の請求は理由があるからこれを認容する。<以下省略>。
(裁判官 寺井忠)